手のひらPCM2702 USB DAC
Part2 : 設計編
2012年1月
Part1 : 試作編 | Part2 : 設計編 | Part3 : 製作編
試作機からの改良
Part1で作った試作機にいくつかの改良を加えて設計しました。
電源電源はこだわりPCM2704と同じように村田製作所のブロックタイプエミフィルをDCラインフィルターにいれました。また3.3Vも同じくAnalog Devicesの低ノイズLDO、ADP150を使います。
±12Vと5V電源は、試作機の反省を踏まえ改良しました。±12VはLT3582によって昇圧し、5V電源はLT3582の出力をLP2985によって降圧します。このように、5V電源を一度レギュレータを通すことにより、レギュレータ自身のPSRRによって可聴域のノイズを除去し、
試作機で問題になったパソコンからのノイズに対して影響がないようにしました。
PCM2702の出力は負荷のインピーダンスが最低でも5kΩ必要とデータシートに記載されています。PCM2704では直接ヘッドフォンを駆動できるようにアンプが内臓されていますが、PCM2702は外部のアンプが必要になります。
出力のアンプですが、ヘッドフォン用のアンプICを利用してもいいのですが、ネットを拝見すると、多くの人がオペアンプを使っているようです。
しかし、低インピーダンスのヘッドフォンの場合、オーディオ用のオペアンプだと出力インピーダンスの影響で電圧降下が起き、あまり大きな出力を出せません。そのためにヘッドフォンアンプICが存在しています。
とりあえず今回はラインレベル出力をメインとして、ヘッドフォン端子は確認用のおまけとして設置することにしました。(といっても十分な音量で聞けます)。
ここでオペアンプ周りの設計に入るのですが、2つ決めなければならないことがあります。それは、オペアンプの動作設定(カットオフ周波数など)と入力側のカップリングをどうするかです。
オペアンプの動作
まずオペアンプの動作を決めます。PCM2702の出力は0.62Vcc、つまり約3Vppの出力があり、標準的なライン出力の条件をみたしています。そのためオペアンプの増幅率は1倍(0dB)にして、
単純にインピーダンス変換をすればいいことになります。この場合、もっとも単純なオペアンプ回路はボルテージフォロアです。ボルテージフォロアーでもおそらく十分に動作するでしょう。
しかし、せっかくオペアンプを使っているので、ここは普通ローパスフィルターとして動作させます。
ではなぜここにローパスフィルターが必要なのでしょうか。詳しいことを話すと一冊の本になってしまうので完結に説明します。まず電子回路内では必ずといって良いほど高調波と呼ばれる元の信号の整数倍の周波数の信号が発生してしまいます。
オーディオ機器ではよくこの高調波の発生のしづらさを低ひずみアンプなどと表現しています。
この高調波は人間の可聴域で再生される音声信号に対して発生し、人間が聞こえない高い周波数でも発し続けます。人間が聞こえない周波数の領域なので、出力に直接ヘッドフォンやスピーカーをつないでも聞こえないのでまったく問題ありません。
しかしあることをするとこの高周波のノイズが不思議と人間が聞こえる周波数帯域に入り込んでしまいます。それはAD変換による録音です。
つまり専門用語を使って言うと、連続時間信号をサンプラー(ADコンバーター)によって離散化すると、エイリアシングというノイズが発生してしまうのです。
このエイリアシングとはサンプリング周波数とナイキスト周波数(サンプリング周波数の半分の周波数)の間にある信号を離散化すると、ナイキスト周波数からの絶対値分折り返してしまう現象です。これがノイズとして人間の耳に聞こえてしまうのです。
たとえばサンプリング周波数が44.1kHzの場合、ナイキスト周波数は22.05kHzとなります。そして、22.05kHzと44.1kHzの間に信号があると、それを録音した場合、0〜22.05kHz、すなわち可聴域にエイリアシングノイズが発生してしまうのです。
うそのように思えますが、実際にエイリアシングは離散化すると必ず起きてしまいます。そのため、オーディオ以外でも、サンプリングを行うもの(たとえばデジカメの映像信号)でもエイリアシングノイズが画像上に発生します。
この辺の詳しいことは、信号処理やサンプリング定理の本を読むと参考になると思います。
少し長くなってしまいましたが、要するに、人間の可聴域以上の周波数に信号が存在してはいけないのです。録音側にローパスフィルターはもちろんついていますが、出力側でもカットできるように通常はローパスフィルターをつけています。
よって、今回はゲイン0dB、カットオフ周波数(-3dB)20kHzとなるようにオペアンプの回路を組みました。オペアンプによるローパスフィルターにはさまざまな形のほか、素子の値の決め方にさまざまな種類があります。
オーディオではネットを見ていると、多重帰還型よくが使われているようです。計算が面倒くさいので、ここはズルをしてTI社が無料で提供しているFilterProを使ってちゃちゃっと設計しました。
出来上がったのがこの回路です。
特に特別なこともない普通のLPFです。
入力カップリング
オペアンプへの入力のカップリングは単純にコンデンサを挿入して行うことにしました。カップリングコンデンサはニチコンのMUSE ESにしてみました。
クリックすると拡大します。
追記(2012年2月7日):回路図のC21の極性が逆になっておりましたので修正しました。
部品番号 | 説明 | メーカー | 型番 |
---|---|---|---|
C1,C2 | 電解コンデンサ 33μF (MUSE ES) | ニチコン | UES1E330MPM |
C3,C4 | フィルムコンデンサ 4700pF | エプコス | B32529C1472J |
C3,C4 | フィルムコンデンサ 1000pF | エプコス | B32529C102J |
C7,C10~C12,C16~C18,C22~C30,C33,C34 | セラミックコンデンサ(1608) 0.1μF | TDK | C1608X7R1E104K |
C8,C19 | 電解コンデンサ 33μF (MUSE KZ) | ニチコン | UKZ1E330MPM |
C9 | セラミックコンデンサ(1608) 1.0μF | 村田製作所 | GRM188F51C105ZA01D |
C13,C14,C35 | セラミックコンデンサ(1608) 0.01μF | TDK | C1608X7R1H103K |
C15,C20,C21,C36 | 電解コンデンサ 220μF | ニチコン | UVZ1E221MPD |
C31,C32 | フィルムコンデンサ 0.022μF | エプコス | B32529C223J |
CN1 | RCAステレオジャック | Linkman | AV2-8.4-12-RW |
CN2 | 3.5mmステレオジャック | Linkman | PJ-3420 |
CN3 | USB mini-Bコネクタ | ヒロセ | UX60A-MB-5ST |
D1,D2 | ショットキーダイオード | Fairchild | RB520S30 |
D1 | 緑色LED(1608) | Kingbright Corp | APG1608ZGC |
D1 | 白色LED | OSRAM | LW P473-R2T1-3K8L-1-Z |
L1 | エミフィル ノイズ除去フィルタ | 村田製作所 | BNX016-01 |
L2,L3 | インダクタ 6.8μH | 太陽誘電 | NR3015T6R8M |
L4 | チップインダクタ(1608) 3.3μH | TDK | MLF1608A3R3M |
R1, R2 | チップ抵抗(1608) 22Ω | ローム | MCR03EZPFX22R0 |
R3 | チップ抵抗(1608) 1.5kΩ | ローム | MCR03EZPJ152 |
R4,R5,R8,R9,R10,R13,R14 | チップ抵抗(1608) 3.3kΩ | Panasonic ECG | ERJ-3EKF3301V |
R6,R7 | チップ抵抗(1608) 3.9kΩ | ローム | MCR03EZPJ392 |
R11,R12 | チップ抵抗(1608) 16Ω | ローム | MCR03EZPJ160 |
R15 | チップ抵抗(1608) 470Ω | ローム | MCR03EZPJ471 |
U1 | USBオーディオインターフェース | Texas Instruments | PCM2702E |
U2 | 12MHz 水晶発振器 | Fox Electronics | FXO-HC536R-12 |
U3 | オペアンプ | Texas Instruments | OPA2134PA |
U4 | 3.3V LDOレギュレータ | Analog Devices | ADP150AUJZ-3.3-R7 |
U5 | DC-DCコンバータ | Linear Technology | LT3582EUD-12#PBF |
U6 | 5.0V LDOレギュレータ | Texas Instruments | LP2985-50DBVR |
PCBレイアウト
今回もDesignSpark PCBで設計しました。
Part 3 : 製作編へ続く>>
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